名称未設定-1 menu_icon1 menu_icon4 menu_icon2 menu_icon3 menu_icon6
新着情報 新着情報

新着情報

整育園通信

音の処方せん

重症心身障害児(者)の方々は、たくさんのお薬を服用されていることが多く、身体への負担を大きいものと考えられます。筆者は当園薬剤部並びに緑成会病院薬剤部との共同研究で、2018年から2019年にかけ多剤併用と腎機能との関係を発表してきました1-3)。しかし現状では、薬剤に替わる治療法は病気によっては確立させていないことが多く、薬剤による症状緩和と身体負担のバランスをどうとってゆくかということが薬剤部としての大きな課題となっています。

筆者が薬物治療の代替案を探していたところ、2018年京都大学の粂田らによって「音により細胞に遺伝子応答が起こる可能性を示す」という論文を見つけました4)。これによると、「音を感じとる器官由来ではない培養細胞に440 Hzの正弦波を聞かせたところ、ある遺伝子の発現を抑制した」というものでした。この論文で注目した点は、以下3つです。1つ目は、「音を感じとらない器官の細胞」を使っていることで、細胞1つ1つにはもともと音を感じとる能力を秘めていてのかもしれません。2つ目は、聞かせた音階(440 Hz)が「ラ(A)」であり、音階によって細胞応答が変化するのかが興味あるところです。528 Hzという音階(ラの音を444 Hzとしたときに3度上のドの音)は、俗に「遺伝子修復効果がある」などと噂されている音ですが、最近この528 Hzの音をネズミに聞かせたところホルモン量に変動があったことを示す論文もあります5)。3つ目は、細胞応答を遺伝子発現量でみているところで、抑制を受けた遺伝子の1つであるPtgs2遺伝子はCOX-2ともいわれ、痛みなどに関連することが知られていますが、最近ではてんかん発作との関連も報告されています6)。筆者が思うに、未だ多くの検証が必要ですが、「音」の医学的応用という日も夢ではないのかもしれません。

筆者が投稿論文を探す中、もう1つ気になったキーワードとして「モーツアルト効果」があります。皆さんもご存じのとおりモーツアルトは18世紀の最も有名な作曲家の一人ですが、1993年カリフォルニア大学のRauscher FHらによって、モーツアルト作曲の「2つのピアノのためのソナタニ長調, K. 448」のもつ効果について論文発表されて以来7)、多くの論文が発表されています。前段では、単音の効果でしたが、曲となるとそれらの音の組み合わせとリズムとの複合効果で、高度でかつ複雑でなかなか理解に苦しむところですが、結果論として「モーツアルト効果」がある種のてんかん患児に影響を与えたという報告がなされています8-11)。筆者が思うに、単音の効果が曲という音の複合化をはかることで、相加的・相乗的な効果へつながっていくのかもしれません。

筆者が勝手に思うところですが、音や音楽の効果が科学的に立証でき、いつの日か音をお薬にできる時を楽しみにしています。

 

Rp. マーラー作曲 交響曲第1番ニ長調「巨人」第1楽章(約30分)

1日1回 聴かずに聞き流す 90日分

 

【参考文献】

1) 山田 誠、他 重症心身障害者における多剤併用は腎機能低下のリスクの1つになり得る. 日本重症心身障害学会誌 43(2): 283, 2018.

2) 山田 誠、他 併用薬剤数は腎機能低下のリスクの1つになり得る. 第26回日本慢性期医療学会, 2018.

3) 山田 誠、他 多剤併用は腎機能低下のリスクの1つになり得る. 第3回日本老年薬学会学術大会, 2019.

4) Kumeta M, et al. Cell type-specific suppression of mechanosensitive genes by audible sound stimulation. PLoS One. 13(1): e0188764, 2018.

5) Babayi Daylari T, et al. influence of various intensities of 528 Hz sound-wave in production of testosterone in rat’s brain and analysis of behavioral changes. Genes Genomics. 41(2): 201-211, 2019.

6) Rojas A, et al. Cyclooxygenese-2 in epilepsy. Elipsia. 55(1): 17-25, 2014.

7) Rauscher FH, et al. Music and spatial task performance. Nature 365(6447): 611, 1993

8) Millichap JG. Does listening to Mozart benefit children with severe epilepsy? Pediatr Neurol Briefs. 29(8): 59, 2015.

9) Lin Lc, et al. Mozart’s music in children with epilepsy. Transl Pediatr. 4(4): 323-326, 2015.

10) Lin LC, et al. Mozaert K. 448 listening decreased seizure recurrence and eplileptiform discharges in children with first unprovoked seizures: a randomized controlled study. BMC Complement Alterm Med. 14: 17, 2014.

11) Xing Y, et al. Mozart, Mozart rhythm and retrograde Mozart effect: Evidences from behaviours and neurobiology bases. Sci Rep. 6: 18744, 2016.

 

文責:薬剤部・山田 誠

一覧へ戻る
back 一覧に戻るのアイコン

ご不明点がございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

電話番号はこちら
042-341-3013
ページトップ ページトップのアイコン

トップへ戻る